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東京高等裁判所 昭和36年(う)28号 判決 1961年10月30日

被告人 早川重三郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

論旨第三点一の2(理由不備若しくは事実誤認の主張)について。

所論は、畢竟、本件モーターボートの移出価格より物品税法施行規則第十一条の七によつて当然差し引かれるべき運送賃及び本来消費者が負担すべきものを製造者において立替えて支払つた検査登録料について全く顧慮することなく、これら運送賃及び立替による検査登録料を差し引かない移出価格に基いて本件逋脱税額を算定した点を非難し、仮りに、原判決において説示するように、期限後申告したものについては、右運送賃を差し引かれる利益を受け得ないとしても、少くとも本件の場合において、期限内に申告した昭和三十三年五月分については、同月分の運送賃及び検査登録料を移出価格より差し引くべきものであるとして、原判決の理由不備ないし事実誤認を主張する趣旨に帰着する。

よつて、所論の点について審究するに、本件違反当時施行の物品税法施行規則(昭和三十一年六月三十日政令第二百二十五号)第十一条ノ六(後に昭和三十五年八月一日政令第二百二十五号により同規則第十一条ノ七に繰下)が、第二種の物品を製造場より移出する場合に、その運送賃に相当する金額を当該物品の課税価格に算入しないことを規定していることは、所論のとおりであるが、それは、その運送賃を当該物品の対価と区分して取引する場合に限つて、それを課税価格に算入しないというのであつて、それ以外の場合は、その運送賃を当該物品の課税価格から差し引く趣旨でないことは、同条の規定自体に徴して明らかである。換言すれば、第二種の物品を製造販売するに当り、その運送賃を当該物品の移出価格と区分して取引する場合は、その運送賃を課税の対象としないという趣旨であつて、かように運送賃を当該物品の移出価格と区分して取引する以外の場合は、その物品の移出価格が運送賃込の価格であろうとなかろうと、常に右移出価格そのものが当該物品の課税価格となる趣旨と解せられるのである。次に、所論の検査登録料は、被告人及び加藤幸太郎に対する収税官吏の質問てん末書によれば、モーターボート競走法に基き競走に使用するモーターボートを全国モーターボート競走連合会で検査を受けて登録するに当り、モーターボートの所有者から同連合会に支払われる検査手数料千円及びその登録料千五百円を指す訳であるから、たとえ、モーターボートの製造者が、当該モーターボートの検査登録料をその所有者に代つて右連合会に立替え支払をしたとしても、その金額は元来右モーターボートの移出価格とは別途に連合会に支払われるべきものであつて移出価格から控除すべきものでないことは、右検査登録料の性質及び物品税を賦課徴収する目的を考察すれば、敢えて多言を要しないところである。

果して然らば、所論のように、本件モーターボートの運送賃及び競走用モーターボートにつき、その検査登録料をそれぞれ当該モーターボートの移出価格から差し引かない額を基礎として本件逋脱税額を算定した、本件物品税法違反の各事実を認定した原判決は、まことに相当であつて、原判決には所論のような理由不備ないし事実誤認の廉はない。よつて、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する)

(裁判官 下村三郎 高野重秋 松本勝夫)

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